認知行動療法とは何だろう
人は現実をそのまま客観的に見ているわけではありません。自分なりの受け取り方や考え方に影響を受けながら、独自の世界を作り上げています。
認知行動療法は、心の病はもちろん、困難にぶつかった時に、それを乗り越えていくような力を育む方法の一つです。
この認知行動療法の基本的な考え方を今回はご紹介します。
自分の気持ちは考え方に影響される
私たちは、自分の中のフィルターを通して世界を見ています。日々生活していると、色々な経験をしますが、その時々に私たちは自分なりのものの捉え方や考え方をして、それが気分に影響を与えます。
次の状況を想像してみてください。
道に迷ってしまったAさんのケース
どこで道を間違えたんだろう。「そういえば前にもこんなことあったな」と、これまで経験した他の失敗まで頭に浮かんできます。そして、憂うつな気分になり、近くのベンチにひとまず腰掛けます。
そうすると、Aさんは「途中、道を聞いた人がいたな。もしかしたらその人から教えてもらった道順が違ってたのかも」といったことを思い出します。
そう考えると、急に怒りが湧いてきました。胸のあたりが熱くなって、鼓動も早くなります。
しかしその時、少し開けた道に辿り着き、人もまばらですが歩いてます。「もう一回道を聞いてみよう」と考え、途端に安心感が込み上げてきました。
上のAさんの例からも分かる通り、自分がどのように考えるかで、その時に感じる気持ちはずいぶんと変わってきます。
気持ちだけでなく、身体の反応や行動も変化します。このように、私たちは自分で作り出した世界を生き、その中で一喜一憂しているのです。私たちはある体験をした時に、色々なことを考え、それが気分や身体の状態、行動に影響する、ということです。
否定的な考えの3つの特徴
気分がイライラしていると、集中が続かずに何も手につきません。不安な時には心配が先に立って不安が強くなってきます。特にストレスが溜まってうつ的になっている時、私たちは自分、周囲、将来の3つに悲観的な見方をします。
自分に対して悲観的
「集中できないし、物覚えも悪い。自分はもうダメだ。」、「頼まれたことをきちんと出来ない自分はダメな人間だ。」と考えるなど、自分自身を否定するような考え方が目立つようになります。
周囲に対して悲観的
「自分は役に立たない人間だし、こんな人間と付き合いたいと思う人はいないだろうな。」と周囲との関係がうまくいっていないと感じて疑い深くなったり、引っ込み思案になったり、人と接することが億劫になったりと、周囲で起こることに対する悲観的な考えが目立つようになります。
将来に対して悲観的
「今の状況はこのまま変わらないんだろうな」、「このつらさはずっと続くんだろうな」と将来に対して悲観的になり、希望を見出せない考えが強くなります。
否定的な考えに支配されている時、ちょっと立ち止まって今の自分の考え方を見つめ直すと、「こういう考え方もあるのね」と少し違ったものの感じ方が得られる時があります。
つらくなった時に頭に浮かんだ考えやイメージに注目する
認知行動療法では、否定的な考えをもう少し柔軟なものにするために、その時々にぱっと頭の中に浮かんでくる考えやイメージに注目します。そうした、その人の考え方のクセとも言えるものを自動思考と呼びます。
私たちの気分や行動はこの自動思考の影響を受けています。つらくなっているとき、私たちは物事を現実以上に悲観的に捉えますし、不安になっているとき、私たちは危険に対して過度に敏感になっています。このような強い気分の変動が起きるとき、その変動を理解するような自動思考が存在しています。
なかでも、特に強い気分の変化を引き起こしている自動思考に注目することが大切で、これは「ホットな自動思考」と呼ばれます。自分の気分が明らかに変化したとき、変化に伴う自動思考に注目することができれば、もっと楽な考え方ができるかもしれません。
ここで自動思考と気分の関係を見てみましょう。
例:会社(学校)であった人が挨拶もしてくれないし、目線も合わせてくれない
「会社(学校)であった人が挨拶もしてくれないし、目線も合わせてくれない」という場面を想像してください。どのような自動思考が浮かび、どのような気分になるでしょうか。いくつか例を挙げてみます。
なにか怒らせるようなことしたかな…(不安)
誰も私のことなんて気にかけてくれないんだ…(悲しみ)
挨拶くらいしてくれてもいいじゃないか、ひどい人だな(怒り)
忙しそう、大丈夫かな(気遣い)
このように、同じ体験をしたとしても、どんな自動思考が浮かぶかで、そのときに感じる気分もだいぶ変わってきます。それはそのひとの考え方のクセとも呼べるものです。
自動思考をチェックする
悪い方向に考えてしまうとき、たいてい悪いことばかりを見ています。自動思考の内容は、あくまでも一つの可能性であり、推測だと考えてみてください。
以下に極端な考え方、ものの捉え方の代表例を挙げました。
(1)根拠のない決めつけ
証拠が少ないのに、思いつきを信じ込むこと。
例:仕事が中々進まないとき、この仕事はうまくいかないだろうと決めつけてしまう。
(2)白黒思考
曖昧な状態に耐えられず、物事を全て白か黒かの極端な形で考える。
例:なんでも完全な状態でないときになってしまう。
(3)過大評価・過小評価
関心ごとは過大に、反対に自分の予想や考えに合わないことは過小に考える。
例:対人交渉が下手だと思っているために、上手にできなかったときのことばかりを思い出して、上手くいったときのことは思い出さない。
(4)部分的焦点づけ
注目していることだけに目を向け、短絡的になる。
例:ある人に苦手意識を持つと、挨拶を返してくれなかったなどちょっとしたことで嫌われていると考える。
(5)べき思考
「こうあるべき」と自分の行動を自分で制限して悔やんだり、責めたりする。
例:家事が十分にできない自分を、「主婦なら家事を完璧にするべき」と責める。
(6)極端な一般化
少ない事実を取り上げて、すべてが同じ結果になると結論づける。
例:ある仕事が進まないとき、過去の失敗を思い出して自分はいつも失敗すると考える。
(7)自己関連づけ
何か悪いことが起こると、自分のせいで起こったのだと自分を責める。
例:子供が学校で問題を起こして担任から注意が入った。それを全て自分の育て方が悪かったんだと自分を責める。
(8)自分で実現してしまう予言
自分で否定的な予測を立てて自分の行動を制限してしまい、自分の行動を制限するために予測通り失敗してしまう。 その結果、否定的な予測をますます信じ込み、悪循環に陥る。
例:人前で話そうとすると声が震えるのではないかと心配しているために、実際に人前で話すときになると、失敗することばかり考えて意識過剰になり声が震えてしまい、「やっぱりそうだった」と考えてしまう。
(9)情動的な理由づけ
そのときの自分の感情に基づいて、現実を判断する。
例:新しいことに取り組み不安を感じると、「初めてだからそう感じる」とは考えず「こんなに不安だからやっぱり自分には無理だ」と考える。
気持ちが動揺したときにあなたの頭の中に浮かんでいる自動思考には、こうした特徴的な“クセ”が見つかるはずです。
しかし、考え方のクセは誰にでもあります。足を組む、考え事をしていると顎をさすっている、こうした体のクセと一緒です。大切なことは、自分にはどんな考え方のクセがあるのかに気づけるようになることです。