あなたの知らない依存症の世界

依存症って何?

よく耳にする“依存症”とはなんでしょうか?

一言で言ってしまうと、特定の人や物、あるいは行為無しではどうしようもなくなる心の病のことです。多様な依存症に共通することは、自分の意思ではコントロールすることが出来ないことです。その意味で依存症とは自己のコントロール障害と表現することができます。

以前は、“依存症”と言ったらアルコール依存症や薬物依存症のことを指していましたが、現在ではネット依存やオタク依存、恋愛依存など“依存症”という言葉がより広い意味で使われています。

元々は社会的にも害が大きい物質(薬物など)に強く執着して習慣化してしまう“嗜癖”という言葉が使われていましたが、現在では広く“依存”という言葉が用いられています。

依存症の特徴

買い物やゲーム、食べることが好きな人は大勢いますが、「好き」と「依存症」は全く違っています。「依存症」の大きな特徴として以下の4点が挙げられます。

依存症の4つの特徴

(1)繰り返してしまう
失敗したり、周囲に迷惑をかけているのに、懲りずに同じことを何度も繰り返してしまいます。

(2)より強い刺激を求めてしまう
同じ程度の刺激では物足りなくなり、どんどんエスカレートしていきます。

(3)やめようとしてもやめられない
「もうやめよう」と思っているのに、自分の意思ではコントロール出来ない状態です。

(4)いつも頭から離れない
依存の対象がいつも頭から離れず、ほかに目がいきません。冷静な判断が出来ず、思いつきの行動も多くなっていきます。

「良い依存」と「悪い依存」

“依存”自体は決して悪者ではありません。誰しも程度の差こそあれ、誰かに、何かに依存して生活しています。赤ん坊が母親なしで生きていけないのも依存のひとつですが、同時に自然なことでもあります。

成長していく過程で、母親以外に依存対象を拡大していき、相手を尊重すること、互いに支え合うこと、相手と自分は異なった一人の人間であることを学んでいきます。「依存」も成熟していくのです。良い依存の場合は、一人の人間として主体性をもって対象と“ほどよい距離”を保てます。 

一方で、悪い依存の場合、自分の安心や満足を得るために、常に対象にしがみついたり、相手を支配・束縛することになります。そこでは、良い依存でみられた、対象との“ほどよい距離”が失われています。

「依存症」とは、この悪い依存が繰り返された結果として生じるものです。その意味で「依存症」とは、自分を取り巻くものとの関係の築き方によって生じるともいえそうです。

依存症の過程

依存症は進行性の病です。多くは、「ちょっとだけなら・・」という軽い気持ちからスタートしています。気がつくと、対象を求めて止まない自分がいて、気になって仕方がなくなっています。自分一人ではコントロール出来ない状態です。

ですが、依存を止められないのは決して「本人の意思が弱いから」ではありません。本人の意思の強さとは関係なく、まずは「依存症は病気の一つ」と自覚することがとても大事です。

このような背景がある依存症ですが、大きく3つのタイプに分かれます。

依存タイプ①人間関係における依存症

普通私たちは、対等な人間関係で支え合えますが、依存症者の人間関係は、相手の上位につくか、下につくか、という“縦の人間関係”で繋がろうとする点が特徴です。お互い対等な“横の人間関係”が希薄なのです。

一方で、私たちは普通“横の人間関係”にも依存しています。“横の人間関係”とは、お互いがお互いを過度に頼りすぎるのではなく、ほどよい距離感を保ったまま相互に助け合える・配慮し合える関係性のことです。この“横の人間関係”は健全な形での“良い依存”であり、日々私たちが人と繋がりを結ぶとき、主体となるものです。

「共依存」について

人間関係の依存症の一つに、「共依存」があります。共依存は、尽くすことで生きがいを感じたい、かまわれることで王様のような気分を感じたい、などの世話をする側とされる側の微妙なバランスで成立しています。

健全な支え合いは、世話をする側とされる側が場合に応じて入れ替わりますが、共依存の場合は、その関係性が固定されてしまい動きません。人の世話をすること、されることに居心地の良さを感じているのです。「共依存」は双方向であり、一方的な形はとりません。

誰でも誰かに頼って日々生活しています。それはごく自然なことです。「人間関係の依存」の場合は、「依存症について①」でもご説明した通り、人との「ほどよい距離」が喪失しており、その人なしには自分の不安をコントロール出来ない、存在価値を認められない、という極端な形で現れてしまうからこそ「こころの病」と呼べます。

人に尽くし過ぎない、頼り過ぎない。誰かが自分の人生や存在を規定しているわけでないのです。

「職場依存」について

 別な理由もなく、毎日残業を続けて職場に残る。一見仕事熱心な人も、職場に安心感を過度に求め過ぎる、会社との一体感を得たいがため、となると「職場依存」の可能性があります。職場依存の方が仕事を毎日必死でこなすのは、上司など周囲の目が気になるから、何かの理由で自宅に帰りたくないから、といった理由からの行動で、決して仕事が好きなわけではありません。むしろ、仕事自体に対しては、日々不満が募っている状態です。

 残業=仕事熱心という考え方がありますが、それは「勤労意欲」と切り離して考えなければなりません。残業をしないのは、怠けたいからでもありません。人によって満足感を得る方法は異なります。「残業すること」自体にやりがいを見出すのではなく、「残業すること」で安心感を求めるような生活が続くために職場に依存してしまうのです。

依存タイプ②プロセス(過程)依存症

 人間関係における依存症は、自分一人では成立しませんでした。他者がいて、その他者とのやりとりが不可欠です。しかし、「プロセス依存症」は、より安易な、手を出しやすい「行動」に依存していきます。より正確には、その行動をする過程で感じる様々な快感情に依存してしまうのです。行動することで得られる快感情によって自分の不快な感情をコントロールし、自分で自分を「コントロール出来ている」という感覚が伴います。

「買い物依存症」について

普通であれば、「欲しいから」何かを購入しますが、「買い物依存症」では「買うこと自体」に目的を見出します。そのため、自宅には使わない物ばかりが溢れかえり、買い物にかかった経費の請求が莫大になっています。

しかし、買い物依存症になると「何かを買うことでしか」自分の不快な感情をコントロールする術を得られなくなるため、「買ったら自分が(周りが)困る」ことは認識していても、止められずに購入行動を続けてしまい、買い物の後には「罪悪感や恥」を感じて気分が落ち込みます。そして落ち込んだ気分を晴らそうと、また何かを購入してしまいます。

「今日は頑張ったから自分へのご褒美!」と欲しかった物を買うこと、「自分好みの服が売っていて、予定外ではあったが衝動的に買ってしまった。」などは日常によくあることです。

大多数の人間が無駄遣いしてしまうことはあります。あくまでも「買い物依存症」はその健全な範囲から多いく逸脱して障害(借金・自己破産など)を生んでいるのに止められない状態を指します。

依存タイプ③物質依存症

物質依存症は、ある物質を体内に取り入れることの快感に依存していきます。人間関係の依存症は他者との駆け引きが、プロセス依存症は何かの行動をする必要がありましたが、物質依存症は身近にある物質を摂取するだけで快感が得られるため、もっとも陥りやすい依存症といえます。

これまでみてきた依存症と大きく異なる点は、身体的な満足を得ることで、精神的な満足を得るところにあります。そのため、特定の物質に対する依存が過度に・長期に続くと、身体的な障害が顕著に現れてしまいます。

以前は物質依存症になりやすい人は逃避的、非社交的、自己中心的で完全主義などの特徴があると言われていました。しかし、最近ではどんな特徴の人間にもみられることから「物質依存症になりやすい傾向の人は特にいない」とされています。

友人とお酒を酌み交わして楽しい時間を過ごす、仕事の合間にタバコを吸って一息つく。日常我々は依存(を引き起こし得る)物質を摂取しています。それ自体は問題ではありません。

むしろ、ほどよい距離を保っているうちは、良いストレス対処法となるため自分を元気付ける「妙薬」となります。物質を摂取することを何よりも最優先し、様々な問題が生じているにもかかわらず、物質摂取を止められないからこそ「物質依存症」なのです。

どこからが依存症?

私たちは日々の生活をより快適に過ごそうと、様々なものを利用し、様々な行動をとります。しかし、大抵の人は、それらの物や行動(食べ物、アルコール類、ショッピング、インターネット、ゲームやその他の娯楽等)を必要とすることや好むことはあっても、“依存”を引き起こすことはありません。

依存症になると、ある物や行動によって「心の安定」を繰り返し満たしているうちに、それらの物や行動のことばかりが頭の中を占めるようになります。そしてその物や行動が本来大切にすべきことよりも優先され、何よりも重要なことになってしまいます。

しかし、依存対象から得られる「心の安定」とは、いわば幻のようなもので、束の間に消えてしまいます。消えてしまうと、たちまち不安や不快感が襲ってきます。そして、再び依存対象から得られる「心の安定」を求めて依存対象を求めようと準備し始めるのです。

この繰り返しの螺旋から抜け出せなくなった状態が「依存症」であり、言い換えれば、「特定の対象物や行動に対する病的な愛着と信頼」が依存症と呼べる状態とそうでない状態の違いと言えるかもしれません。

いかがでしたでしょうか?「依存」というと何か怖いイメージを持たれるかもしれませんが、人は誰でも何かに寄りかかって生きています。それは至って普通のことです。上手に「依存」して日々の生活を豊かに過ごしていきたいものですね。

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